#風という字を使わずに
「ぽあぽあ!」
蒲公英の綿毛を捕まえた小さなてのひら。
振り向く笑顔は幼い頃の君と同じで、僕は目を眇め記憶を重ねる。
「おいで」と手を広げると腕に飛び込んでくる温もり。
(君の愛し子は、僕が後見する事になったよ。これから一緒に暮らすんだ)
君のために買った家で、君のいない日常を始める。
「パパにバイバイして」
優しく言い聞かせると、不思議な顔をしながらも「ばいばい」と素直に手を振る幼な子。
庵治石の下にいる君なんて想像も出来なくて、僕は悲しい記憶から逃げ出すように足早に背を向けた。
春なんて嫌いだ。
僕は君を失った季節を二度と許さないだろう。
諦めの悪い僕を笑うように、白い綿毛が僕らを追い越し空へと消えて行った。
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#風という字を使わずに風が吹くを文学的に表現
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