言えるわけがない


「あれ? 君、指輪なんてしてたっけ?」
目敏い同僚がニヤリと笑う。
「――ああ、これか。」
「しかも左手の薬指だなんて、意味深長すぎやしないか? いつの間にお相手(ステディ)が出来たんだ。」
「違うよ。これは母の遺品でね。父上から贈られたものだよ。」
「それをなぜ君がしているんだい?」
「嵌めてみたら、抜けなくなってしまって。」
嘘と真実を混ぜ込んで、僕はそれを日常(なんでもないこと)にする。
「それは……どうにか抜けないものかな。」
同僚は親切にも、知恵を貸してくれるようだ。
だが僕には不要なアドバイスであろう。
「いや、これはこのままで構わないよ。指に、とてもしっくりくるからね。」

――まるであのひとと結ばれたようだなんて、言えるわけが無い。
そう、神にさえ。

螺旋の梯子

荊汀森栖【Katie Maurice】 創作小説サイトです。 ▪️弊サイトにある画像及びテキストの複製、転載、二次利用は著作権の侵害に当たります。 ▪️著者が許可した範囲外での印刷、ウェブサイトへのアップロードは固く禁じます。

0コメント

  • 1000 / 1000