言えるわけがない
「あれ? 君、指輪なんてしてたっけ?」
目敏い同僚がニヤリと笑う。
「――ああ、これか。」
「しかも左手の薬指だなんて、意味深長すぎやしないか? いつの間にお相手(ステディ)が出来たんだ。」
「違うよ。これは母の遺品でね。父上から贈られたものだよ。」
「それをなぜ君がしているんだい?」
「嵌めてみたら、抜けなくなってしまって。」
嘘と真実を混ぜ込んで、僕はそれを日常(なんでもないこと)にする。
「それは……どうにか抜けないものかな。」
同僚は親切にも、知恵を貸してくれるようだ。
だが僕には不要なアドバイスであろう。
「いや、これはこのままで構わないよ。指に、とてもしっくりくるからね。」
――まるであのひとと結ばれたようだなんて、言えるわけが無い。
そう、神にさえ。
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