#夏という言葉を使わずに夏を一人一個表現する
#夏という言葉を使わずに夏を一人一個表現する物書きは見たらやる
「暗いから」といって繋がれた手は、女子の甲高い嬌声によって呆気無く解けた。
ひらひらと風に遊ぶ浴衣の帯が、金魚のように夜を泳いで僕らの脇を軽やかに通り過ぎる。
共犯者の笑みを浮かべ、そっと差し出された左手を今度は見ない振りで、僕は洋灯(ランプ)に照らされた店先に視線を落とした。
彼の溜め息ひとつで僕の心は重く陰るというのに――。
「これで機嫌直して」と渡された赤い果実は奇しくも罪の象徴で、僕は泣きたくなる。
硬い飴をガチリと一口齧って「甘い」と零せば、すかさずシャクリと彼も果肉を味わい「実(み)はそうでもないよ」と嘯いた。
さして美味くもないものを、お祭りの狂騒が華やかに飾り立て魅力的に見せるのだ。
僕らはこの林檎飴のように、やがて想い出の中の幸せな記憶に成り上がるのだろう。
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