寂しい夜のキメラ
初出 2022.06.25 Twitter
深淵亭ノエル様(@noelnoel_novel)
#フォロワーさんを自分の世界観でキャラ化する
何されても平気な方だけ!
先着3名様で!
誰か来ておくれー(੭˶‾᷄ д‾᷅˵)੭⁾⁾
というツイートに、出遅れたのにご好意でキャラ化していただけたのでツイノベしました。
闇夜を飛ぶ鳥のキメラ。
最近お気に入りの足場(古ぼけた塔)に人間が住み着いたのが気になる。橙色の明かりが揺れるのをずっと見ている。
闇を纏って夜を往く。私は神の悪戯によって生まれた妖。人であり鳥である。似たような姿のものにはこれまで会ったことがなく、常に付き従う蛇(くちなわ)が一匹あるのみ。この蛇は私の髪がお気に入りだ。便宜上、髪と呼んではいるが長く伸びた羽が人のそれと似通っているだけ。
腕は人、腰から下の脚は鳥。そして背には私の身体を覆い尽くしてしまうほどに大きな羽根がある。羽は闇色。いっそ肌も黒ければ良かったと思うのに、肌は白い。白い肌が恥ずかしくて私は常に黒い服を着ている。神に作られた妖であるところの私にはお役目がない。所詮、児戯の結果に過ぎぬ存在。
幼き頃には思い悩みもしたが、今は自由に生きられることに感謝こそすれ神を恨む気持ちなど毛頭ない。だから私は好きに夜を切り裂いて飛ぶ。今日も羽根の調子がいい。羽根の具合が良ければ機嫌も良くなるというものだ。暫し周囲を見回り木の実などを集め満足した私は、お気に入りの止まり木へと降りた。
止まり木とは人が造った塔である。 とうに打ち捨てられた古き円塔は、崩れた尖頂が神に決して届かぬ手のようで親しみを感じていたというのに。いつの間にか人が住み着いていた。あまりにも静かなものだから妖である私をもってして初めは気づかぬほど。男は、生命力が希薄であった。
ある夜、闇に橙色の光が点っていた。それはまるで陸の灯台であり獣への標だった。今では迷うことなく男の元へと辿り着く。半ば崩れた頂に止まり、身体を包み込むようにして羽根をたためば蛇がちょろりと舌を出し睫毛を擽った。寝る前に餌を寄越せというのだ。懐から鼠を取り出せばパクリと一飲み。
実際は、時間を掛け嚥下するのだが。草食な私は少し落ち着かない気持ちになる。集めた木の実でも齧りながら男を観察でもしようかと思った。刹那、蛇に邪魔され糧を取り落とした。バラバラと音を立て、木の実は崩れた塔の穴から落下していく。そして、いつもは決して上など見ない男と目が合った。
慌てて飛び立とうとするが、「――待って!」と言う男の声に身体が硬直し、あっと思った時には私まで堕ちていた。咄嗟に庇ったのは柔い肌。風に削られた岩と折れた板に羽根は傷つけられ、塔は私によって更に崩れてしまったようだ。それを、私は男の寝台で目覚めた時に知った。「良かった」と男は泣いた。
男は呪われていた。それでこんな寂しいところに逃げてきたのだ。石礫を投げられ傷ついた体で、ひとりきりになったというのにひっそりと息を潜めるように生きていた。「呪い?」手当された羽根の傷を確かめながら問えば、男は頷く。「満月の夜に、私は獣になる」。はて、と首を傾げ私は空を見上げる。
厚い雲が月を隠しているが確か今宵は……。そう思った矢先に月光が射し込み、白い肌を真珠の如く輝かせた。黒い布は取り払われていたのだ。私は羞恥に焦がれ羽根を引き寄せようとした。男の目から、隠さなければ――。だが差し伸べられた手に寝台へと縫い付けられるようにして倒された。「あっ」
男の眸は縦に割れ、ギラギラと光を放つようだった。手にはみっしりと艶やかな毛が生え、全身へと広がっていく。獣。男はそう言っていた。比喩ではなく化身するのか。それならば――。「貴方も神の児戯の果てに生を受けた妖か。そうか。だから惹かれた」。人に見つかれば厄介なことになるというのに
私は男から目が離せなかった。古ぼけた塔など朽ちるに任せ、別の寝床を探しに行けばいいのに。学者然とした男が不器用に家具を直し、腹を満たすための糧を手ずから得るのを見守っていた。「惹か、れ?」グルルと喉を鳴らしながら男が呟く。その口から体液が私の白い肌へと滴り落ちる。「ああ……」
溢れたのは紛れもなく嬌声。怯む男を引き寄せ腕に抱いた。「私はこの形(なり)だ。鵺でもなくハルピュイアでもない。ましてや天使などとは呼べぬ半端なキメラ。神の気まぐれか児戯の果てに生まれた憐れな妖よ」男の纏う落ち着いた空気は、獣となっても変わりはしない。「貴方は……綺麗だ」
男が小さく呟いた。するりと寄せる頬の毛が、しっとりとして肌に気持ちいい。「そこに居るのには気づいていた。だが見上げるのが怖かった」「どうして?」「満月の夜になればきっと逃げてしまうから……」「うん」「貴方は、その」「逃げたりはしないよ」こうして抱き締めているのにまだ疑うのか。
「私は逃げたりしないし、貴方の傍にいたいのだが」。その刹那、ぶわりと男の全身が総毛立ち、尾まで丸々と膨らんだ。気高き黒狼のしっぽが。とても可愛いと私は思った。「愛しても、いいだろうか」控えめに告げられた言葉を受け容れない訳が無い。半端な鳥のキメラと人狼は不器用に愛を交わした。
人里離れた森の中。古ぼけた塔に暮らすふたりの姿を、神だけが知っている。
ノエルさんありがとうございました♡
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