‪ #溺・水・息を使わずに


 ゆらゆらと頭上に揺れる光は乱反射している。
 叫び声は波に融け、漣すら起こせない。
 ――ああ、もう君に逢えないのか。
 霞んでゆく視界に誘われ目を閉じれば、瞼の裏に浮かぶ君の柔らかな笑顔。
 隣に並び立つ聖女と呼ばれる女は勝利を確信し哄笑する。
 守り抜きたかった。
 どれほどの誤解を受けようとも、君に蔑まれ汚泥に塗れても構わなかった。
 君が冠を戴く姿をこの目で見たかったのだ。
 怒れる民衆が城門を破り、君を玉座から遠ざけるだろう。
 君が愛する聖女は破滅を呼ぶ魔女だ。あの女は異世界からの客人などではなく、隣国の送り込んだ間諜なのだ。
 ――意識が暗闇に堕ちて行く。
 藻屑と化した僕を少しでも哀れと思うなら、幼き日に二人遊んだ森へ足を向けて欲しい。
 裏切りの証拠は、二人が遊んだ大樹の虚の中に――。

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#溺・水・息を使わずに溺れるを表現する‬

螺旋の梯子

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