逢不レ会恋(あひてあはざるこひ)


 「こんなの間違ってる。」
 そう言ってあなたはぼくに別れを告げた
 震える声と、白濁した残滓に穢された細い両脚
 世間の指し示す正しさを今更に選ぶという
 背徳の黒に浸りきったあなたが
 何処に逃げ場を求めるというのか
 ぼくはきれいに嗤ってみせた
 
 誘いかけてきたのはあなたのほうだった
 何も知らない子どものぼくに
 血の濃さを盾に、美貌を武器にして
 はじめから「きれいだね。」と囁いたあなたの
 記憶の中に透けて見える業の根深さ
 まっしろだったぼくへ墨を落とし込むように
 あなたが触れた指先から
 容易く灰色に染まっていった
 
 「七月には逢えるのかな。」
 そう呟いたぼくに
 「予定日どおりなら、咖那《かなん》くんと同じになるのね。」
 純白の衣装で身を鎧った花嫁は
 嫋《たお》やかな指で胎を撫で
 無邪気に、そして艶《あで》やかに微笑んでみせた
 「きれいな子だといいね。」
 ぼくは
 年下のいとこがこの世界に産み落とされる日を
 心から愉しみにしている

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#百人一首でBL一次創作
四十四 中納言朝忠
逢ふことの絶えてしなくはなかなかに
人をも身をも恨みざらまし

螺旋の梯子

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