トリニティ

初出
2020/06/01 10:12Twitter 

儚げ美形Ωが運命の番である美丈夫αを見つけたとき、既にαは好青年βを人生の伴侶にと選んでいて(婚約状態)、Ωの本能として惹かれることを止められない美形が泣いて縋っても発情期の発散にすら付き合ってくれない美丈夫。美丈夫は先天的だか後天的だか、フェロモン受容体に障害があって運命に無関心。

寧ろ本能に振り回される連中を嫌悪しβ好きとして知られている。好青年βも最初は気味悪がっていたけれど、美形Ωが無害なことと一途で可憐な姿に次第に絆されていく。そんな好青年を見て余計に美形を嫌う美丈夫。美形は精も根も尽き果てたようになってしまい、断腸の思いで距離を置く。

そんなある日、激しい頭痛で昏倒し救急車で運ばれる美丈夫。脳に腫瘍が発見される。幸い早期治療によって大事には至らす、一週間ほどで退院することが出来た。だが、彼の人生はここから変わる。フェロモン受容体の異常が治っているのだ。脳の腫瘍が何らかの障害となっていたのではないかと推察される。

それからの美丈夫は、何をするにも上の空で、パートナーである好青年はもとより家族や周囲の人間にも心配される。横暴なほどに自信満々で「俺様」だった典型的支配階級αが心許ない姿を晒すことは、無責任な取り巻きたちに少なからず不信と失望を抱かせた。それから数ヶ月後。系列外のホテルに

ふらりと立ち寄った美丈夫αは、美形Ωと遭遇しラットを起こしてしまう。番のいない世界を受け入れ生活を立て直そうと必死だったΩは、喜ぶどころか絶望する。フェロモンに支配された関係だなんて、好青年βにも顔向け出来ない。その場に居合わせたひとたちが美丈夫を抑えつけた隙に車道へ飛び出し

車に轢かれる美形Ω。目を覚ましたときには病院にいて、後遺症が残る体になっていた。代理人と共に現れた好青年βに生活支援を申し出られ途方に暮れる美形。美形も良家の子息だったが、美丈夫αに対する錯乱状態とも呼べる言動に実家から絶縁されていた。

運命の番に拒絶され奈落に突き落とされた美形Ωは、生理的に彼を受け付けなくなっていた。生活のためとはいえ頼りたくはない。しかも、ラットを起こしたのは美丈夫αのほうなのに、未練がましい策略で、Ωがヒートを起こしラットを誘発させたという噂がまことしやかに社交界に流れていた。

自分の行いが招いたこととはいえ、理不尽さに無気力となる美形Ω。思考低下し、軟体動物のように芯を失った美形を献身的に面倒見たのは好青年βだった。

ようやく軟体動物から脱し弱々しい人間程度まで回復した美形Ωに、好青年βは避暑地の別邸での療養を勧める。世話人をつけるということで、今の好青年に頼りきりな暮らしをやめられるならと同意するが、別邸で待っていたのは好青年だった。戸惑う美形だったが、都会を離れたことで緊張の糸が解け発情を

起こしてしまう。事故後はじめての発情期に、壊れた体は暴走する。そして好青年は美形を抱く。その、愛情を錯覚させる行為の果てに美形は好青年への愛を自覚する。好青年は全てを受け入れ、受け止めていた。「不純物は俺だった」と悲しげに笑う好青年。

「そんなことはない。本能なんてものに振り回されなければ愛こそすべてだ」と美形Ωは泣く。美丈夫αに対して抱いていた気持ちは渇望。失った半身を求めるが如く必死に縋ったが、そこに愛があったのかは自分にもわからないのだ。「あのひとは僕の半身。その彼が愛したあなたを僕が愛さないわけがない」。

それが答えだと思った。それからすぐに和解とは至らなかったが、美丈夫αと美形Ωは歩み寄り、交流を重ねて、今は三人で上手くやっている。暴君は鳴りを潜め二人のパートナーに甘々な男へと生まれ変わった。そして優しい父親の顔も見せる。最初の子はβとの間に、そして主夫に向いていたのも彼だった。

美丈夫αはITベンチャー企業の社長で、好青年βは秘書兼技術者兼営業(マルチ人間)。美形Ωはアーティストかなー。造形作家とか。なので後遺症に苦しむこととなる。

ドロドロの愛憎劇になるはずがハピエン。おかしい……


螺旋の梯子

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