若き宰相が性奴隷(中略)に娶られるまでの顛末

初出 2020/09/02 9:22 Twitter

仕事がくっそ忙しくてデートする暇もない。溜まる一方だからと魔が差して性奴隷を買った。買ってしまった。派手好みではないので、そこそこ大人しめの、しかし整った顔つき。幼い子供は可哀想なので、これもそこそこの年齢の売れ残りを選んだ。ぶっちゃけ、やれればいいので。

なのにだ、更に忙しくなって性奴隷を構う暇どころか屋敷にすら帰れない。彼を預けた執事には「適当に仕込んでおいて!」って言ったきりだ。でも優秀な執事のことだ、万事上手くやっているだろう。家に帰れば清潔で楚々としたナリの性奴隷が待ってる。それを心の糧に我武者羅に頑張った。宰相なので!

三ヶ月後。急な王位譲渡による戴冠と宰相職の引き継ぎでバタついていた王宮も、何とか回せるようになっていた。やっと帰れるー! そんな彼を出迎えたのは、性奴隷改め侍従見習いだった。え? 下男から始めてやっと侍従になれた? めっちゃ嬉しそう……。周囲の人間とも上手くやってる。ええ……。

今更「コイツは性奴隷にするつもりで買ったから」とは言い出しにくい雰囲気。ましてや寝室に連れ込む……? いや、無理だろ。執事を睨んだら目を逸らしやがった。あいつ絶対、わかっててやっただろ。俺の好み知ってるもんなー。全部バレバレだもんなー。伊達に専属侍従上がりではない。

もういい萎えた。そこそこの値段したのに給金まで払うのか。嫌ではないが納得し切れないものはある。形式上、性奴隷改め侍従見習いの素性を浚っておく必要もある。執事に訊いたら「……ご自分でお確かめになるのが宜しいかと存じます」って言われたからな。なにその言い淀み。気になるじゃないか。

他意はないが時間が空いたのが夜だった為に、彼を自室に招いた。うん。他意はないよ。時間外に応接室を使うと執事が煩いから仕方なく、だ。――ねぇ、うちってケチ臭くない? 俺、宰相よ?? まぁいいけど。客でもないしな。酒をちびちびやって書類に目を通していたら、ぬっと彼が現れてビックリした。

気配が薄い! 声も小さい!! あ、夜だから? そう。なら仕方ないか。まぁ座れとソファーを示せば「はい」と言って従う。俺は「おや?」と思ったね。正規の奴隷商から正規購入した奴隷が、主が勧めたらからといって主の向かい側のソファーに座るか? 座らんだろう。なんなら敷物を避けて床に座るな。

俺は思わせ振りに「――それで?」と言ってみた。どうせ執事に何か言われてるだろと思ったからな。案の定、性奴隷改め侍従見習いは、ゆっくりと話し始めた。あまりの内容に酒が進んだ。彼にも振舞ってみたら、存外嗜むほうだったようだ。執事を誘っても酒には付き合ってくれないので、これは良かった。

翌朝。抱くつもりで買った性奴隷改め侍従見習いに抱かれた俺は頭を抱えることになったが、それはもはやどうでもいい。そんなのコイツの素性に比べたら屁でもない。どうすりゃいいんだと懊悩を深めていたら、隣で寝ていた男の腕に抱き込まれた。刹那、体の力が抜けていく。一晩でこの変わりよう!!

ご無沙汰していたとはいえ、これはあんまりなのでは? ちょっとだけ悲しくなっていたら「泣かないで」と言われた。お前のせいだが!?「私を買ったあなたに、一目お会いしたくて厄介になっていたが、そろそろ戻らねばならない」。唐突に男は語り出した。「必ず迎えに来るから待っていてくれ」だと。

俺は「通用口から出て、どこへなりと行けばいい。――次は正門から来い」と言ってやった。強がりだ。この温もりが惜しいと思ったんだから仕方ない。彼は笑って優しく口づけた。優しく官能的な香りを残し、去る後ろ姿をベッドの上から見送った。体が痛くて動けなかったし。

入れ違いに現れた執事のしたり顔に、苦虫を噛み潰したような思いを味あわされたが、嫌味を言う気持ちにもなれなかった。その日は午前休を貰って、午後からまた仕事を再開した。なんせ代替わりしたばかりで忙しいのだ。気も紛れるしで、俺は没頭して内政に打ち込んだ。何故だか王の視線が五月蝿かった。

一月後、再び現れた性奴隷改め侍従見習い改め隣国の王子は、謁見の間で俺を指差し「こいつを嫁にくれ」と、名乗りすら上げる前に言い放って王の爆笑を誘った。笑いすぎて玉座から転げ落ちたのは後に伝説となったが、「宰相だからやれん」と返された王子がその場で崩れ落ちたのでお相子だと思う。

幸い? 皇太子とかいう面倒くさい席次ではなかったので、コイツが隣国から婿入りしてきた。嫁入りじゃないのかよ。ムカつくな。うちんとこと隣国の仲は良好で、若い王の助けになったと思えば、うん。まぁいいか。性奴隷改め侍従見習い改め隣国の第二王子は、こうして俺の伴侶となったのである。

おしまい。

螺旋の梯子

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